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焙煎までの過程で品質の9割が決まる
コーヒーを探求するほど、誰もがこの事実に気付きます。実際のところ”ハンドドリップでできること”は実に少ない。なぜならば、コーヒーの品質は栽培から焙煎までの過程でその9割が決まってしまうからです。
コーヒーはそもそも大地に育つ農産物であり、栽培の過程で品質のほとんどか決まります。多くのロースターやバリスタが産地に出向いてまでコーヒーを探し求めているのはこのためです。その後、産地から消費国へ生豆が出荷され、焙煎が行われます。この焙煎は、原石の研磨と同じように、コーヒーを飲める状態へ加工する工程ともいえます。ここまでで品質・味わいの9割が決定すると言えます。
しかし、これを生かすも殺すも抽出の腕次第。ハンドドリップは最後の砦として、重要なファクターです。
ハンドドリップでできることは3つだけ
ハンドドリップをする上で、何のために抽出を行うのか目的を明確にすることが重要です。そのため、まずもってハンドドリップでできることを抑える必要があります。
コーヒーギークでは、ハンドドリップでできることは次の3つと考えています。
①抽出濃度の最適化
②香味およびフレーバーのバランスを整える
③雑味を軽減させ、クリーンカップを作る
順に補足していきます。
①抽出濃度の最適化
文字通り、コーヒーの濃さです。最適な濃度を作ることは、ハンドドリップの味作りにおける土台となります。適切な濃度を作ることで、フレーバーや香味がわかりやすくなり、心地よい飲み口や後味になります。
濃度が濃ければフレーバーは曇り、薄ければ質感が失われ水っぽくなります。コーヒーの抽出条件と傾向を見ながら過抽出と抽出不足を防ぎ、適切な濃度を作りましょう。濃度は『粒度』や『Brew Ratio』、『注湯方法』によりコントロールできます。
現在推奨されている濃度はTDS 1.3 % です。この値は、2015年以降のJBrC ( Japan Brewers Cup ) に出場したバリスタたちの発言をもとに引用しています。
TDSとは Total Dissolved Solid の略。水溶液中に溶解されている可溶性固形物の濃度を数値化したものです。例えば、100gのコーヒーのTDSが 1.0 % だった場合、その100gの内99gが水分で、残り1gがコーヒー豆から抽出された成分となります。むしろ、1.3%が推奨値ということは、約98%以上が水ということになります。抽出に使用する水も、非常に重要な要素ということが分かりますね。
②香味およびフレーバーのバランスを整える
コーヒーに含まれる主な味覚要素は『酸味』『苦味』『甘味』『雑味』の4種類に大別できます。辛みなどのネガティブな印象を与える要素は雑味と分類して考えます。
コーヒーギークでは、湯温と抽出時間を調整することで『酸質』と『苦味』、フレーバーのバランスを整えています。『甘味』は、豆の品質によるところがほとんどですが、最適濃度でクリーンカップが表現できた際に最大限に引き出されます。『雑味』も品質によりますが、抽出条件により軽減することができます。
③ 雑味を軽減させ、クリーンカップを作る
雑味は『粒度(パウダーコントロールを含む)』『湯温』『抽出時間』の調整により軽減させることが可能です。これによりクリーンカップを作ることができ、より鮮明なフレーバーとコーヒー本来の甘さを引き出します。
『雑味』はネガティブな印象を与える要素を指し、『極端な酸味や苦味』『辛み』などです。クリーンカップを阻害するフレーバーが曇ったような感覚も雑味と捉えられることが多いです。『渋み』はネガティブな質感にあたります。
『クリーンカップ』とは、フレーバーの明度やそれを印象付ける透明感を指します。
なぜハンドドリップでできることが3つなのか
日本スペシャルティコーヒー協会( Specialty Coffee Association of Japan, SCAJ)では、コーヒーの評価項目を次の7つに定めています。
- カップクオリティのきれいさ
- 甘さ
- 酸味の特徴評価
- 口に含んだ質感
- 風味特徴・風味のプロフィール
- 後味の印象度
- バランス
つまり、この7項目について網羅しかつ品質を高め、抽出時にコントロールできていれば、スペシャルティコーヒーとして評価に値するドリンクを作れていると考えます。
1の『カップクオリティのきれいさ』は上記③のように、2の『甘さ』と3の『酸味の特徴評価』と7の『バランス』は上記②のように、4の『口に含んだ質感』と6の『後味の印象度』と7の『バランス』(重複しますが)は上記①のようにハンドドリップ抽出時にコントロール可能です。
5の『風味特徴・風味のプロフィール』に関しては、味覚の面では上記②にようにコントロール可能ですが、『香り』についてはエイジングにおける品質管理で適切な表現が可能となります。
従って、適切なエイジングによる品質管理のもと
①抽出濃度の最適化
②香味およびフレーバーのバランスを整える
③雑味を軽減させ、クリーンカップを作る
の3つにフォーカスした抽出条件を選定しハンドドリップを行えば、最適な抽出が可能と言えるのです。
パッと見シンプルな内容ですが、その先には非常に奥深ーい世界が広がっています。
次回はレシピを組む際の抽出条件について解説します。