珈琲抽出理論-7. ハンドドリップで “蒸らし” が大切なのはなぜ?

なぜハンドドリップで蒸らしが大切なのか

ハンドドリップでは蒸らしがとても大切。『コーヒーの味わいを決めるため』『抽出の準備をするため』などなど。様々な理由がありますが、それはいったいなぜなのでしょうか。今回は、蒸らしの重要性を検証実験とともにより深く掘り下げていきます。

 

蒸らしの目的は?

コーヒーギークでは、
 
・全てのコーヒー豆からの均等な成分抽出を促すため
・豆に含まれるガスを抜き、クリーンな印象を持たせるため
に蒸らしを行なっています。
 
また、蒸らしで最も重要なのは、均等にお湯を浸透させることだと考えます。ドリッパー内にあるすべてのコーヒー豆に対し、均等にお湯を浸透させること。これが大切。
 
もし、お湯の浸透にバラツキがあった場合は、場所によって成分抽出のタイミングがずれるために、成分の均一性が崩れ、狙った味わいを引き出すことができません。
 
 

そもそも蒸らしとは何か

蒸らしは『蒸らしの湯温』『蒸らし時間』『蒸らしの湯量』の3つを決めて行います。順番に解説していきます。
 

蒸らしの湯温

これはいわゆるハンドドリップを行う際の湯温です。何度の設定でコーヒーの抽出を始めるかを決める重要なポイントの一つ。湯温は『フレーバーの明るさ』『抽出効率』『抽出濃度』に大きく影響します。特に浅煎りのコーヒーを抽出する際は重要で、フレーバーの明るさを左右します。
 
フレーバーの明るさは、温度が高いほど明るく、低いほど暗い印象となります。ただし、温度が高ければ良い、というわけではありません。温度が高いほど抽出効率が上がるために雑味が多く抽出される傾向にあるからです。
 
コーヒー豆の特性やキャラクターに合わせて、適切な湯温を決めましょう。
 
この湯温については、後日別の記事で徹底的に解説します!!
 
 

蒸らしの時間

多くの場合、この蒸らし時間を正確に設定し、ハンドドリップを行う方法が紹介されています。この蒸らし時間はどのくらいの影響があるのでしょうか。コーヒーギークでは、この蒸らし時間の最適な条件を決めるため、以下のような検証実験を行いました。

 

検証実験その1:クレバードリッパーを使用した蒸らし時間と濃度変化の検証

≪実験方法≫

蒸らし時間を0秒、15秒、25秒、35秒にそれぞれ設定した、4パターンのコーヒーを抽出する。抽出した後で濃度を測定する。クレバードリッパーを使用することで、抽出完了時間を全ての条件で統一した。

クレバードリッパーは、弁の開閉を行うことでコーヒーの抽出を行う浸漬式の抽出アイテム。コーヒー豆をお湯に漬け込むだけで簡単にコーヒーを抽出できます。お湯の注ぎ方に味わいを左右されることがなく、弁を開けるだけでコーヒーが抽出できるため、抽出時間を常に一定に設定することができます。ハンドドリップビギナーにおすすめ。

出典:https://www.google.co.jp/url?sa=i&source=images&cd=&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwiAisrNtNreAhUD6bwKHbdaCmoQjRx6BAgBEAU&url=https%3A%2F%2Fbollard.jp%2Fshopping%2F196%2F&psig=AOvVaw2wvcBrasstu8zFdi5u_VlB&ust=1542509163596553

≪実験抽出レシピ≫

・コーヒー豆の量:10g、粒度:中細挽き、総湯量:150g、湯温:90度

・注湯回数:蒸らしを含め2回(蒸らし0秒のみ1回)

・蒸らしを行った後、クレバードリッパーの弁を閉め、残りの湯量をすべて注湯する。1分40秒浸漬状態を保った後、弁を開け抽出液を取り出します。

≪実験結果と考察≫

蒸らし時間を4パターンに設定し抽出を行ったが、すべての条件で濃度の変化はほとんど見られなかった。従って、蒸らし時間は濃度に影響しないことがわかる。蒸らし時間が濃度に影響しないことを裏付けるため、次の検証実験を行った。

検証実験その2:ハリオV60を使用した蒸らし時間と濃度変化の検証

≪実験方法≫

蒸らし時間を0秒、15秒、25秒、35秒、45秒にそれぞれ設定し、抽出した後で濃度を測定する。蒸らし時間以外の抽出条件はすべて同一とする。今回はハリオV60ドリッパーを使用し、抽出完了時間のコントロールは行っていない。従って、抽出条件はすべて同じ状況下で蒸らし時間が長いほど抽出時間が延長されていきます。

≪実験抽出レシピ≫

抽出レシピを以下のように設定し、注湯方法も固定する。

・コーヒー豆の量:20g、粒度:中細挽き、総湯量:210g、湯温:90度

・注湯回数:蒸らしを含め2回(蒸らし0秒のみ1回)、蒸らし湯量:30g

≪実験結果と考察≫

蒸らし時間が長いほど、それに従って抽出時間が延びています。抽出時間の延長に伴って、濃度が濃くなっていくのがグラフから見てとれます。検証実験その1と比べ、変化している点は「抽出時間」です。つまり、抽出時間が長いほど濃度が高くなりますが、蒸らし時間の長さと濃度には関係性がほとんどない、と言えます。

しかし一方で、蒸らし時間と味わいについては影響があるようです。

2016年度のJapan Hand Drip Championship において決勝へ進出した岡田珈琲の久保田バリスタは「蒸らし過ぎるとボディが重くなる」と発言しており、蒸らし過ぎによる質感への悪影響は多く報告されています。

適切な蒸らし時間は?

 以上の検証結果と考察より、コーヒーギークでは蒸らし時にお湯をかけてコーヒー豆が膨らみ切った瞬間まで、を蒸らし時間としています。理由は、

・蒸らし時間は濃度に影響せず、過度な蒸らし時間は質感の悪化をまねくため

・浅煎りと深煎りなど、焙煎度合いやエイジング日数によってコーヒーの膨らみ加減には差があるため

です。蒸らし時間はコーヒー豆の状態に合わせて変えるべき、と考えます。

 

この『コーヒー豆が膨らみ切った瞬間』とは、挽いたコーヒー豆の粒からガスが外へ抜けた瞬間です。焙煎したコーヒー豆はハニカム構造を持っていることは以前の記事でご紹介しました(リンクはコチラ)。この空間の中には、焙煎時に化学変化によって生じたガスも含まれています。このガスはコーヒー本来のフレーバーを阻害する要因の一つです。

蒸らしによってコーヒー豆全体に、均一にお湯をかけることでガスを外へ逃がし、フレーバーにクリーン印象を持たせます。また、蒸らしによってコーヒー豆一粒一粒から外側へ放出されたガスは、コーヒー豆に膨らみと適度な空間を作ります。この空間が均一であれば、注湯の際にお湯がコーヒー豆全体へ行き渡り、均一な成分抽出をすることができるのです。

蒸らしにおいては、均一な蒸らし、が何よりも重要なのです。

 

蒸らし湯量について

コーヒーギークでは、コーヒー豆の量に対して1.5倍の量のお湯を蒸らし時にかけています。これは、蒸らしでお湯をかけた際に、サーバーへ若干の抽出液が落ちる程度です。

ここからは、大きく見解が分かれるところなので、ひとつの意見とさせてください。

この蒸らし湯量の理由は、蒸らし時に抽出液をサーバーへある程度逃がした方が酸質がはっきりする傾向があるからです。

検証の結果、コーヒー豆と蒸らし湯量の比率が1:1よりも1:1.5の方が、酸質がはっきりし口当たりが鮮やかになり、蒸らし湯量をある程度多くした方が、酸質は目立ちやすい傾向にあることがわかりました。

あくまでも、個人的な見解なのですが・・・

蒸らし湯量の違いは、蒸らし時間中のドリッパー内の濃度および浸透圧に影響します。まず、酸質は抽出初期にそのほとんどが抽出されます。抽出初期の抽出効率が高いほど酸質のボリュームは大きくなるわけです。また、注いだお湯は浸透圧の働きにより成分濃度の濃い方へと移動し、豆の組織内部へ浸透していきます。この浸透時(蒸らしの時)、すでにドリッパー内のお湯が成分の飽和状態であった場合、豆の組織内部へは水分が十分に浸透しません。従って、蒸らし湯量を多くし、注湯直後の高濃度抽出液をサーバーへ一旦逃がしてから蒸らしを開始することで豆への水分浸透を向上させることができます。そうすることで、初期の抽出効率を上げることができ、酸質をより鮮やかにすることができます。

蒸らし湯量が少ないとき酸質が暗くなる原因としては、①:初期抽出効率が低いために酸質が上手く抽出されないこと、②:その他の抽出成分が酸質の抽出を阻害されてしまう、または目立たなくなる、と考察しています。蒸らし湯量を調整することで、酸質のボリュームと口当たりを調節することが可能です。

結論!

少し長くなりましたが、結論として、蒸らしは

・挽いたコーヒー豆に対し均一にお湯をかけ、時間はコーヒー豆が膨らみ切るまでとし、
・『全てのコーヒー豆からの均等な成分抽出を促すため』『豆に含まれるガスを抜き、クリーンな印象を持たせるため』に行う。
 
のが最適だと考えます。
実際にいろんなパターンで検証を行い、蒸らしのコーヒーへの影響を実感してみてください。